並木麻輝子先生と行く
プロヴァンス・パリを巡るお菓子視察ツアー

日程:2005年6月20日(月)〜6月27日(月)87日間

視察予定場所事前予習コーナー
地域&料理&菓子&お店

◆ プロヴァンス案内 ◆

 抜けるような空とのどかな田園風景、豊かな食卓。プロヴァンスの魅力は一言では語り尽くせない!

 プロヴァンスという言葉が持つ独特の響きは、長きに渡り世界中の人々を魅了し続けて来た。降り注ぐ太陽、海、山、川、平野、谷、湿地を揃えた恵まれた地理条件。冬でも穏やかな地中海性気候。あふれる緑とのどかな田園風景は、多くの人が思い描く「理想の田舎」のイメージにぴったりとあてはまる。単に美しい田舎というだけでなく、素朴さや田舎っぽさを合わせ持つ居心地の良さも訪れるものを引き付けてやまないプロヴァンスの魅力の一つだろう。

プロヴァンス“味の四天王”は、 オリーブオイル、ニンニク、トマトそしてプロヴァンス産ハーブ   
 ローマ帝国やスペイン領カタルーニャにも従属し、プロヴァンス語を話す独立国としての歴史も持つこの地方では、個性の強い独特の料理文化が生まれ育った。 
 例外はあるが総じて野菜や魚は素材の持ち味を生かすようあっさりと調理するのがその特徴の1つ。凝ったソースを使わなくても豊かな大地と太陽によってベースの味ができているからだ。ただし牛肉を使った郷土料理はトロトロに煮込まれたものが多い。それというのも地元産の牛というのはカマルグの湿地帯で訓練され、闘牛として人生を走り抜けてきた筋骨隆々の雄牛なのだ。またタイム、ローズマリー、バジル、オレガノ、キダチハッカを合わせたミックスハーブは国内では“エルブ・ド・プロヴァンス”(プロヴァンスのハーブ)の名で売られている。「香りが命」といわれるプロヴァンス料理はオリーブ油、ニンニク、ハーブ、トマトを多用し、バターやクリームを使った一般的なフランス料理とは一線を画している。魚や野菜料理も多く、きっと好みの味が見つかるはずだ。

 訪れる人を魅了するプロヴァンスの町と村

プロヴァンスには魅力的な村や町がそれこそ無数にひしめき合っている。ローマ時代の代表的遺跡が残るアルルには有名な朝市と地元産ロバのソーセージ、橋や法王庁宮殿で名高いアヴィニョンには名物のナス料理がある。中世の町に迷い込んだようなタラスコンやユゼス、ゴッホの描いたイメージそのままのサン・レミなど小さな村の朝市も魅力だ。ロマ民族(ジプシー)の聖地サント・マリー・ド・ラ・メールではパエリヤも食べられる。ロマンと活気、わい雑さを含んだ港町マルセイユは言わずと知れたブイヤベースの町。白い馬やフラミンゴのいるカマルグの湿地帯は世界最大の塩田を持ち、米どころとしても有名。ピーター・メイルの世界リュベロンの村々にはフルーツの砂糖漬けで名高いアプトやラヴェンダー畑の広がるセナンク修道院がある。しかし滞在して楽しいのはエクス・アン・プロヴァンスだろう。

 貴族文化に育まれた学生都市。
 優雅で活気溢れる町『エクス・アン・プロヴァンス』


 この地方一優雅な町エクスは貴族達が暮らした時代の華やかさと、学生町の活気、町を彩る無数の噴水や泉、木漏れ日が美しいプラタナスのトンネルの下にはカフェが軒を連ねている。そして色鮮やかな食材がひしめくにぎやかな朝市、おいしいパン屋やお菓子屋も揃う。音楽フェスティヴァルでも有名なこの町ではストリートミュージシャンは音楽学校の生徒が多く、いつもどこかでクラシックの音色が流れている。フランスでも最も人気の高い魅力溢れる町だ。バス便も充実し、プロヴァンスの他の土地へ行くのにも便利。ここを拠点に各地へ食べ歩きに出掛けるのもいいだろう。魚料理のおいしいマルセイユまではバスか汽車で30分だ。

郷土料理・菓子の紹介
並木麻輝子著
「フランス名物食べ歩き図鑑」「ツール・ド・グルメ フランスの郷土料理」「ヨーロッパ食べ歩きの本」より抜粋&加筆

郷土料理編

●Soupe au pistou スープ・オー・ピストー●
「ピストー風味の野菜のスープ」
ズッキーニ、サヤインゲン、ジャガイモ、トマトなど、その時ある野菜をできるだけ多く入れる具沢山のスープ。ポイントはふっくら実った生の白インゲン(あれば赤も)と、バジル、ニンニク、オリーブ油、おろしチーズで作る香りのよい「ピストー(ペーストの意)」を加えること。プロヴァンスの夏の代表料理。

●Moules a la provencale ムール・ア・ラ・プロヴァンサル●
「ムール貝のプロヴァンス風」
ムール貝とニンニクをオリーブ油で炒め、白ワインで蒸したもの。ムール貝はフランス各地で様々に料理されるが、ニンニクで風味を付け、トマトとバジルを加えるのが御当地風。ピーマンを加える場合も多く、彩り豊かな仕上がりも特徴。同地方には米、パン粉、野菜を殻に詰めてオーブンで焼く食べ方もある。

●Poivrons grilles a l' huile ポワヴロン・グリエ・ア・リュイル●
「グリルした赤ピーマンのオリーブ油漬け」
太陽と大地の恩恵を十分に受けたプロヴァンスのピーマンは、甘く濃厚で、別名ピメント・ドゥー(甘い唐辛子)とも呼ばれている。この旨みを網焼きで凝縮し、新鮮な地元産オリーブ油の香りと合わせて楽しむ。焼いて油に漬けただけの単純料理ゆえ、素材の持ち味が重要。ニンニク風味を付ける場合も多い。

●Crespeou クレスペウ●
「層状にした野菜のオムレツ」
赤や緑のピーマン、ズッキーニ、トマト、ナス、マッシュルームなどの野菜を別々に溶き卵と合わせて順次流し、色鮮やかに焼いた層状オムレツ。オムレツとはいえ、型でケーキのように焼き、薄く切って食べる。伝統的にはカトリックの祝日、特に謝肉の火曜日や復活祭に作るお祝い料理。

●Daube de boeuf a la provencale  ドーブ・ド・ブフ・ア・ラ・プロヴァンサル●
「プロヴァンス風牛肉の煮込み」
香味野菜や香草、地元産ワインに半日以上漬けた牛肉をオリーブ油で炒め、塩漬けの豚肉やトマト、漬け込み液、野菜を加える。これを弱火で柔らかな蒸し煮にした南仏の代表的家庭料理。風味のきめ手は土地の混合ハーブとニンニク。各地に羊や兎、魚などのドーブがあるが、プロヴァンスのものが最も有名。

●Caviar d' aubergines キャヴィア・ドーベルジン●
「ナスのキャヴィア」
半分に切ったナスにオリーブ油をかけて焼き、皮を取って身を細かくたたいた「南仏版焼きナスのたたき」。ニンニクや香草で風味を付け、オリーブ油で仕上げた安く美味なる「庶民のキャビア」。アヴィニョンにはナスのピューレに卵などを加えて型で焼く「パプトン・ドーベルジン」というナス料理もある。

●Tomates a la provencale トマト・ア・ラ・プロヴァンサル●
「トマトのプロヴァンス風」
ニンニクとパセリの風味、素材の味がポイントの南仏版焼きトマト。良質のオリーブ油をしいたフライパンに半割りトマトを入れ、15〜30分かけてじぶじぶと焼く。この上にミックスしたニンニク、パセリ、パン粉を載せ、オーブンで表面に焼き色をつけるというのが基本形。他の香草が加わる場合もある。

●Alouettes sans tete アルウェート・サン・テット●
「詰め物入り牛の蒸し煮」
直訳は「首なしヒバリ」というとんでもない名だが、実際はトマト風味が効いた柔らかな巻き物料理(ポピエット)。牛肉の薄切りに塩漬け豚の挽肉、ニンニク、ハーブ、野菜などの詰め物を載せて巻く。これをオリーブ油でソテーし、白ワイン、水、トマト、ニンニク、香草を加えてじっくりと煮込んだもの。

●Grand aioli グラン・アイオリ●
「アイオリで食べるタラと野菜の盛り合わせ」
ニンジン、ジャガイモ、サヤインゲン、アーティチョーク、ズッキーニ、タマネギなどの茹で野菜にアイオリソースを付けて食べる。塩抜きして茹でた干しダラ、茹で卵も盛り合わせるのが基本。野菜を多用するプロヴァンスでも、これだけ一度に出す(写真以外にもう1皿あり)メインディッシュは他にない。

●Pieds et paquets ピエ・エ・パケ●
「羊胃の詰め物と羊足の煮込み」
刻んだ羊の腸間膜、塩漬け豚、ニンニク、パセリを四角く切った羊胃に巻き込み、タマネギやニンニクのソテー、羊の足、トマト、香草などと共に白ワインで長時間煮込んだもの。柔らかな羊胃をトマトの酸味、香草やニンニクの風味が引き立て、抵抗感なく食べられる。ブイヤベースと並ぶマルセイユの代表料理。

●Soupe de poissons スープ・ド・ポワソン●
「魚のスープ」
魚の形は残していないが、魚の旨味とエキスをあます事なく封じ込め、芳醇なサフランの風味をきかせた1品。オリーブ油で炒めたタマネギにホウボウやアナゴなどを加え、ニンニク、トマト、サフラン、ポロネギ、ウイキョウ、水を入れて煮込み、身をつぶして漉す。食べ方はブイヤベースのスープと同様。

●Legumes farcis a la provencale  レギューム・ファルシー・ア・ラ・プロヴァンサル●
「プロヴァンス風野菜の肉詰め」
ピーマン、ナス、ズッキーニ、トマト、タマネギなどから3種以上の野菜を使い、中をくり抜いて挽き肉とくり抜いた中身、ニンニク、タマネギ、ハーブ、パン粉などを合わせたタネを詰め、オリーブ油をかけてオーブンで焼く。通称プティ・ファルシー(小さな詰め物)と呼ばれるプロヴァンスの代表的お惣菜。

●Lapin a la provencale ラパン・ア・ラ・プロヴァンサル●
「プロヴァンス風兎の煮込み」
フランスの料理本では兎を鳥と同列に扱い、ラパン(飼い兎)やジビエに属するリエーヴル(lievre。野兎)も普通に食べる。兎は鶏に似た白色系の肉でクセもなく淡白。ニンニク、タマネギとラパンをオリーヴ油でソテーし、白ワイン、出し汁、トマト、ハーブを加えて煮込むというのがプロヴァンス風の基本。

●Bouillabaisse ブイヤベース●
「サフラン風味の魚介の煮込み」
世界的に有名な南仏名物だが本来はマルセイユの郷土料理。 タマネギ、トマト、ニンニク、ウイキョウ、香草などをオリーブ油でソテーし、魚、ジャガイモ、出し汁、サフランを加えて煮る。地元産の魚を4種以上使い、カサゴ類は不可欠。プロヴァンス各地にイワシ、干しダラなど、多彩なブイヤベースがある。

●Tapenade タプナード●
「オリーブペースト」
オリーブにアンチョビ、ケーパー、ニンニク、ハーブ、オリーブ油を加えペースト状にしたもの。パンにはもちろん、パスタ、肉、魚、野菜、茹で卵などにもよく合い、ソースのベースとしても活躍する。瓶詰めなどがスーパーに並びお土産にも最適。黒オリーブの方が一般的だが、グリーンを使ったものもある。タプナードと並び、アンチョビ、オリーブ、ニンニクのペースト、「アンショヤード」も有名。

●Poulet saute a la provencale プーレ・ソテ・ア・ラ・プロヴァンサル●
「プロヴァンス風鶏の蒸し焼き」
柔らかく煮込まれた鶏肉にトマトの酸味と甘み、ニンニクの風味が調和する名物料理。カットした鶏肉を鍋に入れ、ニンニク、白ワイン、タイム、そして1羽につき1kgのトマトで表面を覆い、蓋をしてじっくりと蒸し焼きにする。鶏の旨味を吸った濃厚なトマトソースも美味。オリーブを加えることもある。

●Bourride ブーリッド●
「ニンニク風味の白いブイヤベース」
ブイヤベースの兄弟分だが、こちらはサフランに代えてアイオリソースを入れ、白身の魚だけを使って白く仕上げる。ベースの材料はタマネギと魚、香草、水か魚の出し汁といたってシンプルだが、アイオリのコクと風味で食べごたえある仕上がりになる。スープと魚を別々に食べるのはブイヤベースと同じ。

●Salade de chevre chaud サラド・ド・シェーヴル・ショー●
「温製山羊乳チーズのサラダ」
乳牛が少ないプロヴァンスでチーズといえばシェーヴル。その山羊乳チーズにオリーブ油をかけてオーブンで焼き、好みでハーブや胡椒を散らしてレタスやサラダ菜、トマトなどと共に盛り合わせる。南仏ではふつう、トーストを別添えにし、パリのカフェではチーズトースト風にパンに載せて焼くことが多い。

●Brandade de morue ブランダード・ド・モリュ●
「干しダラのペースト」
ラングドック地方のニームの名物だが、プロヴァンスでもポピュラー。干しダラを長時間塩抜きし、骨と皮を除いてから茹でて身をほぐし、オリーブ油、牛乳か生クリーム、ニンニクを合わせ、滑らかに練り合わせたペースト。ここに少量のじゃがいもを合わせたり、グラタン風に焼いて出すこともある。

お菓子・デザート・パン編

●Calisson カリッソン●
「フルーツ風味のマジパン菓子」
プロヴァンスの郷土菓子を代表する1品がこれ。プロヴァンス産の上質アーモンド、メロンの砂糖漬け、果物のシロップをペースト状に練り、オレンジの花水で風味を付けた半生菓子。底には紙状ウエハース、上面はアイシングで仕上げる。1473年エクス生まれの銘菓で、原産地表示により品質が保証されている。しっとりした食感と爽やかな果実香が特徴。

●Nougat de Provence, Nougat blanc ヌガ・ド・プロヴァンス、ヌガ・ブラン●
「プロヴァンスの褐色のヌガー、白いヌガー」
褐色のヌガ・ド・プロヴァンスは、糖液と蜂蜜をカラメル状に焦がし、ナッツ類、アニス、オレンジの花水などを合わせる。仕上がりは目が詰まった固めの飴状。ヌガ・ブラン(白いヌガー)は、蜂蜜に卵白やゼラチンを合わせいるため、軽さとチューィーな食感が同居。ナッツの歯ごたえと香ばしさも魅力だ。

●Tarte aux pignons タルト・オー・ピニョン●
「松の実のタルト」
アーモンドクリームに地元産の松の実をたっぷりと合わせたタルト。松の実はプロヴァンスからラングドック・ルシヨン、ミディ・ピレネーなどで古くから菓子材料とされてきた。卵白、粉糖、アーモンドパウダーを合わせた三日月型に焼いた「クロワッサン・オー・ピニョン」もプロヴァンス名物として有名。

●Navettes de Saint-Vivtor ナヴェット・ド・サン・ヴィクトール●
「舟形のビスケット」
オレンジの花水で香り付けされた小舟(ナヴェット)形のビスケットで、バターの量が少なく、ボソッとした食感の素朴な郷土菓子。1781年にマルセイユの聖ヴィクトール修道院の近くで作られたのがはじまりとされ、現地では毎年この修道院の祝祭日(2月2日)に、ナベットを食べて祝う習わしがある。

●Pompe a l' huile ポンプ・ア・リュイユ●
「オリーブ油入りの菓子パン」
発酵生地で平たく作り、オリーブ油のほかレモンの皮、オレンジの花水や皮を混ぜる。プロヴァンスのクリスマスに欠かせない「13のデザート」の1つで、他にはカリンゼリー、カリッソン、ヌガーなどの菓子、フガス、砂糖漬けのフルーツやドライフルーツ、洋梨、アーモンドなどのナッツ類などがある。

●Fougasse aux olives フガス・オー・ゾリーヴ●
「オリーブ入りフガス」
フガスはオリーブ油入りの発酵生地を平たく延ばして焼いた南仏名物のパン。チーズ入りやラタトゥーユ入りなど、生地も材料も多種多様。オリーブを使う場合も、弾力のある生地に細かくたたいて入れたり、柔らかめの生地にザク切りで加えたりとさまざまだが、いずれも穴が空いているのが特徴。

●Fougasse aux grattons フガス・オー・グラトン●
「脂肪ソテー入りフガス」
南仏独特の穴あきパンであるフガスの中でも、特徴的なのがこの豚や鵞鳥の脂身をカリカリに焼いたグラトン入りのタイプ。ちなみにフガスは南仏の呼称で、他ではフワスといい、形状も異なる。砂糖やバターの入ったお菓子風のものもあり、他地方ではこちらのほうがポピュラー。

●Brousse, confiture de pasteque ブルース、コンフィテュール・ド・パステーク●
「ブルースチーズ、スイカの砂糖煮がけ」
プロヴァンス産の羊乳か山羊乳製のフレッシュチーズを使うデザート。マルセイユ近郊で「ブルース・デュ・ロヴBrousse de rove」、ニース近郊で「ブルース・ド・ラ・ヴェジュビBrousse de la vesubie」が作られる。ツルリと柔らかく甘いチーズを、砂糖煮したスイカの皮の甘さと香りが引き立てる。ブルースにほかのフルーツを添えたり、ブルースだけをシロップ漬けにしてくることもある。

●Banon バノン●
「栗の葉に包まれたチーズ」
プロヴァンス中央北部のバノン地域などで作る山羊乳か牛乳、または両方を使うチーズ。2週間熟成した直径約7cm、100gの小形円形チーズを、ブランデーに浸した栗の葉で包む。殺菌された葉の中で熟成し、葉の色と香りが移り茶色味を帯びると、強めの発酵臭が出る。山羊乳製は春から秋が旬。

★知っとくとコラム★

プロヴァンスの朝市

世界中どこでも朝市巡りは旅の大きな楽しみだが、プロヴァンスで初夏から初秋に出会う朝市は特に印象深い。地方の市場ではほとんどが地元産品。例えばエクスでは強い陽光と澄んだ空気を吸い込んだ鮮やかな野菜や特産のハーブ類、オリーブや果物、菓子や蜂蜜、花などがあふれる。アルルやサン・レミなどの朝市でも、陽気で世話好きな生産者兼売り手と気持ちが触れ合う買い物が楽しめる。朝市が立つ曜日は町によって決まっているので、事前に旅行計画に組み込んで幾つか回れば、忘れがたい思い出になること請け合いだ。

オリーブ

プロヴァンスの朝市に行くとどんな土地でも必ずオリーブ専門の屋台があり、最低でも20種近くがズラリと並ぶ。プレーンな塩漬けから、ニンニクやハーブ、唐辛子風味、刻んだピーマンとあえたもの、細かくたたいたもの、さらにペースト状のものまで実に多彩だ。万能素材として料理にも多用され、主婦達は用途に合わせて買っている。また、この土地においてオリーブは郷土の象徴であると同時に和合のシンボルと言われ、単なるつまみ以上の重要な意味合いを持つ食材だ。緑のオリーブは若摘み、黒オリーブは完熟。いずれも採ってすぐ塩水に浸け、その後市場に出る。幾つもの名産地があるが、中でもニヨンのものは国内でも有名。ここで作られる上質のオリーブオイルはシェフ達にも人気だ。我々が単純に黒と緑に大別しているオリーブだが、実際は同じ黒でも赤みがかったもの、青、緑、黄、茶系と、細かな色の差がある。さらにハリ、ツヤ、固さ、大きさ味、香りなど産地によっても様々だ。我々にはない偉大なるオリーブ文化が存在するわけだが、微妙な味の差を食べ分け、やれ塩加減がどうの、香りがどうのとこだわる人々の様子を見ていると、“南仏版漬物”と言えなくもない。
ブイヤベースの正しい食べ方 〜本場の「ブイヤベース憲章」〜

 ブイヤベース発祥の地マルセイユでは、「ブイヤベースはマルセイユの誇り」と、なんと「憲章」まで作り、数々の規則を定めている。ツーリスト相手のものではなく、“本物”を食べるのであれば、郷土愛から生まれたブイヤベースのルールなるものに、なぜか我々も従うことになる。現地で教わったブイヤベースの「食し方の儀式」を紹介しよう。 

 ブイヤベースを注文すると、まずスープと共にクルトン(薄切りフランスパンのトースト。あらかじめガーリックトーストにしてくる店と自分で生のニンニクをこすりつけてから使う場合がある)とアイオリに唐辛子とサフランを加えた“ルイユ”さらに大抵の店がアイオリも添えてくる(伝統的にはルイユだけでいい)。このソースを好み量クルトンにのせ、3つ4つスープに浮かせてから食べるのであるが、徐々にソースが全体になじみ、コクのあるスープを吸って膨れあがったパンを噛むとニンニク、サフラン、磯の香が口中に広がる。三者が出会ってこそ生まれた至高の味だ。なお、魚の方はクルトンを使わずソースだけを付けて食べる。店によりせん切りのチーズも添えてくる事があるが、これはスープのオプション。ソースと共にクルトンにのせてスープに浮かせてしまおう。熱いスープにチーズが溶けたところもまた仲々の滋味だ。説明をはさんで対話も弾み、客と店側の距離を縮める料理でもある。ブーリッドも食べ方は全く同じだが、白い色を損なわないためにソースはアイオリだけが添えられる。

覚えておきたいブイヤベースの知識

*アイオリはニンニク風味のマヨネーズ状のソース、
*ルイユは、アイオリにトマトや赤ピーマン、カイエンペッパーなどを加えたソース。
*ブーリッド(ニンニク風味の白いブイヤベース)にも入れるため、アイオリは必ず黄色く仕上げ、ルイユは赤く仕上げるのがお約束。



Copyright(c) 2004 
Office Feve All rights reseved
掲載記事・画像の無断転用を禁じます